こじんじょうほう

ここでは普通の話しかしません

As.Spicy.As.Possible

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これは何ヶ月か前に見た力強い看板。

「インド料理」を大きく書くのは当然としても、「間もなくオープン」を同一のフォントサイズで揃えなかったことが表現にダイナミックなうねりを生み出している。たしかに看板を出した時点で店がオープンするのは自明なのだし、わざわざ大きな文字で表す必要はない。そんなことより「いつ」オープンするかのほうがずっと重要だ。結果、「インド料理間もなく」というキラーフレーズが誕生し、それから2週間と経たぬうちに有言実行、このシャッターは上げられることとなった。

わあ、本当に間もなくオープンしたんだな、と前を通るたびに思いながらも、今日まで店を訪問する機会を先延ばしにしていたことは痛恨の極みといえよう。客の気持ちが「インド料理そのうち」程度でしかなかったというのは深く反省しなくてはなるまい。

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インド料理と銘打ちつつ、こんなのもある。そしてこれも「タイ料理お持ち帰り」じゃなく「タイお持ち帰り」なところにダイナミズムが貫かれている。ただの料理だと思うなよと、その味の背後に広がる異国の風を、情緒を、世界をまるごと持って帰るつもりで750円を支払えと、そういうメッセージを受け取った(感受性が過敏になりすぎている)。ヤキビフンに関しては少々見慣れない文字列で一瞬ヤギ料理か何かだと思ってしまった。

カレーセットのテイクアウトは、6種類のカレーから好きなもの1種を選んでナンかライス付きで550円。妥当な値段だと思う。同じものを店内で頼むと、ここに自動的にサラダとドリンクが付いて750円になり、ナンが1枚だけおかわりできるようになる。

お昼時にもかかわらず店内は空いていたので、調理を待つあいだテーブルについて待たせてもらえることになった。3分ほどした頃にラッシーが差し出された。サービスらしい。サービスが過ぎるなと思いつつ礼を言って一口飲むと、その後すぐに商品の用意ができたらしく呼び出される。本当にすぐだった。ラッシーを飲み乾す時間もなかった。まさに「インド料理間もなく」の看板に偽りなしだ。

「どうも」と言ってビニール袋に包まれたカレーを提げて店のドアを開け、爽やかな日差しに照らされた外へ半歩踏み出したところで気がついた。そういえばお金を払っていない。こんな堂々とした万引きがあるものか。

恥ずかしさに身を竦めながらレジ前まで戻り、あ、すいませんお金…と申し訳なさそうに切り出すと、その一部始終を黙って見守っていたインド人の店員は短く一言「ソウネ」と答えたのだった。

カレーの味は申し分なく、量も十分にあった。きっとまた行くだろう。今日の出来事をお互いが忘れ去ってから間もなく。